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gauguin
gauguin 1848-1903

 ゴーガンをはじめてみたとき、(たぶん中学生ぐらいだと思うが・・)なんで女の人をあんなに不格好に描くのだろうと思った。腕も足も太く、それまで見た絵のなかに出てくる女性のイメージとは、ほど遠いものだった。今でも女性を描いたものはあまり気に入っていない。ポーズも少し不自然だぞ、と欠点を見つけたくなってしまう。しかし彼が作る色彩は美しく、私を強く引きつける。
 色彩は大きなかたまりとしてカンヴァスの上に置かれる。しかも同系色を持ってくるのではなく、鮮やかな補色を持ってくる。この感覚はどこかで見たことがあるぞ、と思ったら浮世絵だった。彼の「海辺で」という作品はまさにそれだった。波がひとつの図形として描かれていて、何とも言い様のない美しさがある。自然の中の形が美しさを極めたとき、それが図形にまで昇華し、命を吹き込まれて動き出す・・じつにダイナミックな瞬間を描いている。
 
 ゴーガンのもう一つの特色は輪郭線だ。一部の作品を除いてかなりハッキリと書かれている。私はこの輪郭線というヤツが好きだ。ルノアールを見ると何か落ち着かない。形は線で描くという発想なのである。
 この「黄色いキリスト」もハッキリと輪郭線が描かれている。輪郭線を描くことによって形はデフォルメされ、象徴的になってくる。幻影としてのキリストを描きたかったゴーガンは、だんだん輪郭線の色を濃くしていく。目も鼻もほとんど輪郭線だけで、漫画の顏のように描かれている。色彩の黄色にほとんど黒といった配色は、ポップアートのようで、同時期に描かれた「光輪のある自画像」でより明確に、力強く、美しくなっていく。

 子供の頃クレヨンから水彩の筆に替わって困ったのは、輪郭線が書きにくいということだった。しかも上手い絵書き達はどうも線で絵を描かないという強迫観念もあった。その後もペタンとした日本画より、絵の具の盛り上がった油絵の方が魅力的で、カンヴァスの質感や、ポピーオイルの匂いも私を引きつけた。しかしこの油絵というのは、およそ輪郭線を描くのに適さない画材だった。私の場合ロットリングとケント紙に出会い、子供の頃以来の線画に興味が移っていった。
 本屋のアートのコーナーで、ひときわ鮮やかな色彩に目を止めて近寄っていく。するとそこにゴーガンがある。写楽が南洋の島に行ってそこで絵を描いたら・・ふとおかしな妄想に自分で笑ってしまう。