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Modigliani
Modigliani 1884-1920

 モディリアニの絵は私の感性にピッタリあてはまった。ほとんどが人物画で、それも上半身の肖像画が多い。椅子に座ってこちらを見ているというポーズがほとんどだ。
 この画家のシリーズを描き始めて、時には描けるかな?と不安になることもある。たとえばシャガールのように感性の違う画家や、風景画など私の苦手な絵を描くときなどだ。しかしモディリアニは全く不安が無い。描こうとする対象物から構図、配色まですべて私の感性に似ているのだ。私は彼の絵を見ながら勝手に筆を進めていく。大した描き直しもなく、また、レイヤーを沢山使うこともなく短時間で仕上げられた。
 しかしたった一点私の感性と違うのが、目の描き方だった。モディリアニは目の玉を描かないことが多い。白目だけで、ボーとした感じの顔に仕上げることが多い。これをはじめてみたとき、その個性的な描き方に引きつけられた。こんな描き方もあるンだーと少しビックリもしたが、ときどきまねもした。
 人物画を描くとき、目は重要な意味を持つので、気に入るまで何回も描き直す場合がある。むかしピカソの絵を模写したとき、目のところを描いていて「なーるほど」と思ったことがある。天才の技法の一つを発見した気分だった。それだけ重要な部分をモディリアニがベタ塗りしたのはなぜなのだろう。
 目は魂を現すともいう。それをあえて描かなかったのは、魂の入れ物である肉体だけを描きたかったのだろうか? その理由は私には分からない。ただ、その理由を越えて彼の絵は美しい。形がつくるバランス、色彩、タッチ、そのどれもが完璧とも思える美しさを持っている。同じような構図の肖像画なのだが、それでいて見入ってしまうほどの美しさを持っている。
 具象的な絵なのだが、よく見ると超現実的な絵のようにもみえてくる。その椅子に座った人々に「あなたはいったいだれなんですか?」と、問いかけてみたくなる。
 モディリアニは何かの物語の登場人物を描いたのかもしれない。もしあなたが小説家なら、この物語を書いて欲しい。美しい登場人物達はもう何十年も、ただじっと座って待っている。